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GHQに検閲された詩

 


ここでは、大東亜戦争終戦後に行われたGHQの検閲事例を紹介したい。


かへる霊

この歌は、先の大戦に出かけ、そして骨となって故郷へと戻った戦士の姿を見て歌われたものである。(尚、この詩は検閲を受けたが、その直後に検閲制度の変更が行われたために原文のまま公表できたようである。[2, p119])

以下に、原文を掲載したい。[1, p101]

かへる霊

川路 柳虹(りゅうこう)

汽車はいつものやうに
小さな村の駅に人を吐き出し、
そつけなく煤と煙をのこして
山の向こうへと走り去つた。

降り立つた5、6人のひとびとは
白い布で包んだ木の箱を先頭に、
みんな低く頭を垂れて
無言で野路(のみち)へと歩き出す。

かつての日の栄光は、
かつての日の尊敬すべき英雄は、
いま骨となって故郷へ還つたが、
祝福する人もなく、罪人(ざいにん)のやうに
わづかな家族に護られて野路をゆく。

青い田と田のあひだに
大空をうつす小川
永遠の足どりのやうに
水の面(おもて)に消えまた現れる緩(ゆる)い雲。

この自然のふところでは
すべてが、あまりに一やうで
歓びと悲しみも、さては昨日も今日も、
時の羽搏きすら聞こえぬ間に生きてゐる。

無言の人々に護られた英霊は、
燃える太陽の光りのなかで、
白い蝶のやうな幻となつて
眩しくかがやき動いてゐつ。

かへるその魂の宿はどこか、
(あがな)はれる罪とは何か?
安らかに眠れよ、ただ安らかに
おまへを生み育てた村の家に、
戦ひのない、この自然と人の静かさの中に。


出発した時は多くの人に見送られて出発したであろうに、帰ってきた時にはそのような人々はおらず、大自然の懐でひっそりと家族に支えられた霊の行く先はどこであろうか? という投げ掛けを行っている歌である。

この原文には、「霊」という言葉、そして死んだ先にはどこに行くのだろうかという根本的な投げ掛けが行われている。 本来、日本の文化とは家族の絆を中心として、その前後には祖先との繋がり、そして未来への繋がりがごくあたりまえのものとして存在していたものであった。 そのような姿が、この歌にはありありと示されている。 根源的な投げ掛けを行っている歌であるのだ。

そして、この歌がGHQにより次のように書き換えられた。

原文   検閲後
     かへる
 
川路 柳虹(りゅうこう)
 
汽車はいつものやうに
小さな村の駅に人を吐き出し、
そつけなく煤と煙をのこして
山の向こうへと走り去つた。
 
降り立つた5、6人のひとびとは
白い布で包んだ木の箱を先頭に、
みんな低く頭を垂れて
無言で野路(のみち)へと歩き出す。
 
かつての日の栄光は、
かつての日の尊敬すべき英雄は、
いま骨となって故郷へ還つたが、
祝福する人もなく、罪人(ざいにん)のやうに
わづかな家族に護られて野路をゆく。
 
青い田と田のあひだに
大空をうつす小川
永遠の足どりのやうに
水の面(おもて)に消えまた現れる緩(ゆる)い雲。
 
この自然のふところでは
すべてが、あまりに一やうで
歓びと悲しみも、さては昨日も今日も、
時の羽搏きすら聞こえぬ間に生きてゐる。
 
無言の人々に護られた英霊は、
燃える太陽の光りのなかで、
白い蝶のやうな幻となつて
眩しくかがやき動いてゐつ。
 
かへるその魂の宿はどこか、
(あがな)はれる罪とは何か?
安らかに眠れよ、ただ安らかに
おまへを生み育てた村の家に、
戦ひのない、この自然と人の静かさの中に。
 
     かへる
 
川路 柳虹(りゅうこう)
 
汽車はいつものやうに
小さな村の駅に人を吐き出し、
そつけなく煤と煙をのこして
山の向こうへと走り去つた。
 
降り立つた5、6人のひとびとは
白い布で包んだ木の箱を先頭に、
みんな低く頭を垂れて
無言で野路(のみち)へと歩き出す。
 
 
 
 
 
 
 
青い田と田のあひだに
大空をうつす小川
永遠の足どりのやうに
水の面(おもて)に消えまた現れる緩(ゆる)い雲。
 
この自然のふところでは
すべてが、あまりに一やうで
歓びと悲しみも、さては昨日も今日も、
時の羽搏きすら聞こえぬ間に生きてゐる。
 
 
 
 
 
 
 
 
安らかに眠れよ、ただ安らかに
おまへを生み育てた村の家に、
戦ひのない、この自然と人の静かさの中に。

ここでは、「生と死」という根本問題への投げかけが削除され、「霊」と言う存在の隠蔽がなされている。 過去との歴史を断絶すれば民族は撲滅される。 まさに、この検閲はそれを狙ったものだった。 ここで削除されているのは ”生者と死者とのきずな” である。 このような仕打ちにより我々は、何かを”忘れさせられた”のである。

そして、その忘れさせられたものを掘り起こし、現代に蘇らせることこそが、我々新たな世代の使命ではないのだろうか? 大戦時代のプロパガンダはたくさん出回っているが、不真実を取り除けばそこには素晴らしい世界がそこらじゅうに満ち満ちているのである。


参考までに、以下に川路 柳虹の一般データを載せておきたい。

川路 柳虹(りゅうこう)
詩人,美術評論家。東京都の生れ。本名誠。曾祖父は川路聖謨。1913年東京美術学校卒。《詩人》の1907年9月号に日本の口語詩の最初の作と言われる《塵溜(はきだめ)》ほか〈新詩四章〉を発表して注目され,《路傍の花》(1910),《かなたの空》(1914)などの詩集を刊行した。17年に結成された詩話会の中心的詩人の一人となり,曙光詩社を設立し,《現代詩歌》《炬火(たいまつ)》などの雑誌を発行して諸詩人を育成した。その詩風は時とともに変転して多彩,新律格の研究にも熱心で,《歩む人》(1922),《明るい風》(1935)などの詩集に詩風の展開を示した。《現代美術の鑑賞》(1925),《マチス以後》(1930)などの美術評論の著書もある。   乙骨 明夫


このような事例を、更に発見し次第、追加して行きたい。

平成16年2月16日 21時0分 記

■参考■
1 「深い泉の国」の文化学 (山内 健夫 著) 展望社
2 国際派日本人養成講座 4 (伊勢 雅臣 著) 千年紀図書

 

 

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